深窓と猫
深窓と猫
最近、同僚が猫を飼い始めたようで、よくその話を振られる。
「年取ったら落ち着くらしいけどうちのこはまだまだやんちゃでさ」
野良の成猫を保護したらしい。仕事帰りに暗い夜道で鳴いていたのを連れて帰り、温めて、ごはんを食べさせたと語っていた。
「やっぱり元野良だから外に出たがるんだよね。だから俺が家にいない時に大声で泣いてるんじゃないかって不安でさ。防音シート的なものを買おうと思ってて。おまえ家で楽器の録音とかしてるんだろ? 防音どうしてるの?」
とまあ、こんなことを聞かれたので。比較的安価に済ませるためリフォーム資材やペット用品もある大きめのホームセンターで壁や床に貼る防音シートを二人で買いに来た。
「まさかお前が猫飼い始めるなんてな。死んじゃうのが悲しくて動物飼えないって言ってたのに」
「やっぱ目の前で弱ってたら放っておけなくて。連れて帰ってきてしまったものは仕方ないし。一生うちで面倒見るよ」
「それはねこちゃんも幸せだなぁ」
こいつは最近、本当に楽しそうにしている。家に猫がいるからと仕事が終われば早々と帰り、休日も飲みに行かずにずっと家に居るそうだ。
「まるで嫁ができたみたいだな」
「あながち間違いじゃないかもな」
そんなことを言って彼は防音シートと猫のエサをカートに積んだ。目当てのものを集め終わったのでレジに向かう。しかし途中で足をぴたりと止めて何か考え事をしだした。
「しまった。買い忘れがあった。ブラシは何処だろう」
そう言って直進して衛生製品のほうへ向かった。
「髪が長いからこまめにブラッシングしないと」
俺は用事があるからと言って足早にその場を後にした。